昇圧回路を自作して簡単に300Vを出力できる回路についてメリットやデメリットについて解説します。
昇圧回路を自作するデメリットは、市販品のものに比べて部品選定が面倒なのと、300Vが出力できるとは言っても、取り出せる電流が低いので、大電流を扱うモーターなどを駆動する事は難しいという事です。
今回紹介する昇圧型DC-DCコンバータの場合は、出力される電流が直流電源なので、ACで動作する機器が動かない場合もあります。
メリットとしては、自由度の高さや、直流で動作する機器に対しては、交流に変換する必要が無いので、そのまま昇圧回路で昇圧した300Vの電源を使用する事が出来ます。
この昇圧回路はジュールシーフとも呼ばれ、コイル・ダイオード・コンデンサーを使用して3.7Vを300Vの直流(DC)に昇圧するのでDC-DCコンバータです。
今回はチャージポンプやジュールシーフについて、昇圧回路やDC-DCコンバータの仕組みを工学部を卒業した筆者が解説します。
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昇圧回路を自作するデメリットは電流不足?300V発生自作昇圧回路ポイント
- 昇圧回路を使用したDCコンバータは、直流で動作する機器に対しては変換ロスが少ない。
- この自作昇圧回路は、コイルで発生したエネルギーをダイオードとコンデンサーで平滑出力しているので、DC-DCコンバータ。
- ジュールシーフで出力したDC-DCコンバータのデメリットは、波形が完全に直流にはならないリップル(脈流)として出力されてしまう点。
昇圧回路を自作して300Vを出力するメリットとデメリットは?
昇圧回路を自作して300Vを出力するメリットデメリットについては、冒頭でも少し解説しましたが、この見出しでは、昇圧回路のDCコンバータを自作した時のメリットとデメリットについて深堀します。
メリットは、負荷が直流で動作する機器の場合は変換ロスが少ないですが、もしACアダプターなど交流で動作するような電源回路で、トランスで降圧している場合は直流では動作しないので、一旦交流に直してから使用する必要があります。
USBの出力電源は直流の5Vなので、この自作した昇圧回路の場合、昇圧した直流電源を一旦交流に変換し、変換されたものがACアダプターを通って降圧されて、また直流の5Vにしなければならないので、かなりの損失が発生するのがデメリットです。
下記の動画では、昇圧回路を用いて自作した機器の一例で、電撃殺虫器を製作した時のデモ動画です。
昇圧回路のスパークテストの様子で、真っ暗な室内が、放電で手元が分かるくらい明るくなっています!弾けるような動作音だけでもどれだけハイパワーな電撃殺虫器になったかわかると思います。
こちらは既製品の電撃ラケットを改造したもので、ブリーダー抵抗をはずし、コンデンサーも大容量のものに交換しています。
電撃もなかなかの威力ですが、部品の耐圧に余裕が無いのと、一回のチャージ迄かなりの時間がかかります。
その点、今回自作した昇圧回路で作った電撃殺虫器は、このコンデンサーよりもさらに大容量のコンデンサーを使用していますが、電撃の充電はほぼ一瞬です。
今回電撃殺虫器向けに自作テストした昇圧回路にはデメリットもあり、既製品の電撃ラケットや電撃殺虫器と比較して部品代が高いのと、回路がデカいので、電撃ラケットのように振り回して殺虫するというよりかは、紫外線のLED等を一緒に取り付けて、虫が寄ってくるのを待機するぶら下がりの電撃殺虫器として使用するのが現実的です。
自作昇圧回路の回路図や部品について解説
それでは、自作昇圧回路がどのように300Vを出力するのか、使用する部品や回路図について詳しく解説します。
後半では動作原理についても解説しておりますので、昇圧回路を用いて電撃殺虫器を簡単に自作してみたい方はぜひ最後までご覧ください!
動作原理については後ほど詳しく解説しますが、手書きでチラシの裏に書いた自作の昇圧回路(DC-DCコンバータ)です。
これだけ部品点数の少ない回路で高電圧を簡単に出力するには部品剪定がキモで、特にトランジスター・コイルには耐圧の高いものを選定し、抵抗もワット数が高く、大電流に耐えられるような部品剪定が基本です。
コンデンサーは高電圧がチャージできるように400V・100μFという大容量のものを使用しています。
使用する部品について簡単に解説します。
- 【1】トロイダルコイル
47μH(マイクロヘンリー)9A(アンペア)の大電流が流れるトロイダルコイルです。今まで様々な回路を作ってきて、この位の大きさと容量のコイルが中間タップも取りやすく改造しやすいです。中間タップを取るときは、カッターでエナメル質を剥がしてハンダ付けします。
楽天やアマゾンで同じ9Aの商品が無かったので、5Aの47μHですがタップを付けづらいだけで動作します。
- 【2】NPNトランジスタ
2SD718ですが、無い場合は2SB688でも代用できますが、2SBはPNPトランジスタなので、コレクタ設置になります。つまり、回路上では繋ぐときにコレクタとエミッタの向きが逆になります。
- 【3】電解コンデンサー
100μFもしくは150μF(マイクロファラッド)400V(ボルト)の電解コンデンサを使用します。50V位の電解コンデンサーでもPCファンや12V LEDは点灯可能ですが、ネオン管は光りません。
- 【4】ダイオード
1N4007のダイオードで1KV 1Aの耐圧があります。実は画像のダイオードは取り外した更に大電流に耐えられるものですが、新しいものを使うが勿体ないので、古い電源基盤から取り外したものを使用しています。1N4007を使えば問題ないです。
- 【5】抵抗器
220Ω(オーム)2W(ワット)。1/2Wでも行けるか試したところ、めちゃくちゃ発熱してしまったので2Wの抵抗器に変更しました。この抵抗器はトランジスタのバイアス抵抗で、トランジスタの動作点を決めるものですが、正直無くても動きます。ただ、トランジスタを保護するためにも入れた方が良いです。2Wであれば、220Ω~2KΩ位でも全然OKです。
- 【6】リチウムイオンバッテリー
最近は懐中電灯等によく使われるリチウムイオンバッテリーの18650です。電圧は一本で3.7Vあります。
その他の部品は、自作した昇圧回路が動作しているか確認するために用意しますので、無くてもかまいません。
ネオン管・ナツメ電球(100V5W)・12V駆動の車載用LED・PCファンを昇圧回路の動作確認用として使用します。
オプションパーツとして必要なものが一点あります。
電撃殺虫器としての使用であれば、トランジスターの発熱を気にする必要はありませんが、動作確認をした時の様に、この回路でLEDを点灯したり、モーターやナツメ球などの電力を使用する用途に使う場合は、トランジスタの熱を逃がすためにヒートシンクが必要です。
ヒートシンクはパワーエレクトロニクスや電源回路ではよく使用する機会があるので、このようにまとめて様々なサイズがセットになったものを購入するのがお勧めです。
セット品はネットならではの商品で、秋葉原や電子部品店ではなかなかこのようなセット販売で売られている事がありません。
とりあえず、仮組ですね!これで動くか実験してみると、あっけなくネオン管が点灯しました!ネオン管は点灯しますが、似たような放電管でも蛍光灯は点灯させることが出来ません。
何故でしょう?蛍光灯は放電開始電圧が高く、300V位で点灯させることが出来ますが、コンデンサーがデカすぎてチャージするのに時間がかかり連続的に放電させることが出来ません。
試してませんが、コンデンサーを223K(0.022μF)400Vに変えれば点灯するかもしれません。
日が差している中での撮影だったので、明るさがあまり伝わりませんが、LEDは直視出来ない位まぶしく点灯しています。
僅か3.7Vの電池一本で、12VのLEDが点灯しています。
100V 5Wの白熱電球のナツメ球もご覧の通りあっさり点灯するパワーがあります!古い回路ですが、簡単で応用のしがいがあり、パラメーター(部品)もある程度適当で動くので、ジュールシーフによる自作発振回路に可能性を感じますね。
一番最初に移っているPCファンでも良いですが、封を開けたシロッコファンがあったので、こっちに変更です!かなりデカいシロッコファンで、PCファンは0.18Aですが、このシロッコファンは0.5A流れます。
果たして動くでしょうか?余裕で動きます。
チャージポンプとジュールシーフは何が違う?昇圧回路なの?
チャージポンプもジュールシーフも昇圧回路の一種でDC-DCコンバーターで良く使われます。
チャージポンプはコイルを使用しないで、コンデンサーの電荷の移動だけで実現する回路で、コイルを使用しないのでノイズの面や実装面積を小さく出来る等のメリットもあるようですが、私はこの方式についてあまり詳しくないので、こういう回路もあるという事を覚えておいてください。
すごいですね!自作しなくてもわずかな周辺部品を取り付けるだけで簡単に倍電圧が出力できてしまう製品が販売されています。
コイルで昇圧出来る原理をおさらい!DC-DCコンバーターとは?
コイルで昇圧できる昇圧回路の原理は、組み込みラボさんの解説がめちゃくちゃわかりやすいです。
ただ、難しい公式やグラフがあって、内容は主に電気関係の仕事に従事している設計者か、学校で電気の勉強をしている方向けの内容なので、ここでは内容をかみ砕いて説明します。
組み込みラボさんの回路図にある通り、昇圧型DC-DCコンバータの基礎は、コイルに電流を流すと、逆向きに流れに対抗するように、磁束が大きくなるコイルが主役の部品です。
ある程度磁束が大きくなったコイルのスイッチを切ると、反対向きに貯まったエネルギーが流れるので、これをダイオードを通してコンデンサーに電荷を貯めているのです。
このスイッチの部分は、ボタンでもなんでもいいので高速で動作させれば動作しますが、現実的ではないので、トランジスタでスイッチします。
トランジスターによるコイルのスイッチに関する記事は、こちらの電撃ラケットの記事でも解説しています。
この記事は既製品の電撃ラケットを改造してパワーアップさせています。
こちらでもなかなかのパワーですが、部品剪定はギリギリの状態で作られているので、この回路で今回の実験と同じような事をすればトランジスタが耐えられないでしょう。
昇圧回路が使用される機器について教えて!デメリットは?
昇圧回路が利用されている電子機器は沢山ありますが、ここではいくつかその利用例について解説します。
昇圧回路には実に様々な種類があり、原理も様々ですが、今回の様にジュールシーフでトランジスタとコイルの相互作用により発振する発振回路を、自励式発振回路といいます。
他にも、ICでONとOFFの信号を外部から与えるマルチバイブレーター回路を多励式発振回路と言います。
ジュールシーフは回路の性質上、電池残量を限界まで搾り取るまで発振動作します。
低電圧で駆動するので、主に懐中電灯を点灯する回路や、プラズマライターの発振回路、他にも今回のようにダイオードとコンデンサーを付加した昇圧式DC-DCコンバータとして利用します。
自作で作る発振回路の入門としては、ジュールシーフを用いた昇圧回路が一般器です。
今回の回路は直流から直流への出力ですが、直流から交流へ出力するDC-ACインバータもあります。
ダイオードとコンデンサーをとっぱらって、そこに電源トランスをとりつければ簡単にDC-ACインバータになります。
DC-DCコンバータではACアダプターに繋いだiPhoneを充電する事は出来ませんが、電源トランスに変更すれば、3.7V一本でiPhoneを充電できるポータブルバッテリーとして動作させる事が出来ます。
昇圧回路でも、今回のようなジュールシーフによるデメリットをお話しします。
通常、私たちが日常生活で使用しているコンセントからとる電源は交流100Vで、綺麗なsin波です。
sin波がどのような波なのかはネットで沢山出てきますが、こちらの記事で解説していますのでご覧ください。
しかし、このジュールシーフで発振する発振回路は、パルスのような波形になるので、波形がとても汚いです。
とりあえず、手っ取り早く高電圧を出力したい時に便利な回路ですが、周波数成分が重要な回路においてはデメリットしかなく役に立ちません。
昇圧回路を自作するデメリットは電流不足?300V発生自作昇圧回路まとめ
昇圧回路を自作して、300Vを出力するDCコンバータのメリットとデメリットについて解説したのでまとめます。
部品剪定に余裕があるので、自作した昇圧回路でも、300Vの出力で大きな電圧や電力を使用する機器でも利用できるメリットがある事も、写真や動画のように実際に証明出来ました。
ジュールシーフはコイルとトランジスタの相互作用で動作する発振回路ですが、デメリットとして出力される波形がパルス状で、不安定なので電気殺虫器やLEDやネオン管のように、動作が電圧で周波数成分は関係ない電子バイスを駆動する用に最適な回路です。
逆に、周波数成分を加味しなければならないような電子機器には、他励式で綺麗なsin波が出力できるような発振回路を設計する必要があります。
DC-DCコンバータは、直流から直流電源へ変換する回路で、今回の様にダイオードとコンデンサーを付加した回路で高電圧の直流が出力されます。
このダイオードとコンデンサーを取り外し、電源トランスを接続すれば、簡単にDC-ACインバーターとして利用する事が出来ます。
チャージポンプはコンデンサーの電荷を移動して昇圧する回路で、ICとしてパッケージ化されているようです。
昇圧回路を利用する機器は沢山ありますが、先に述べた通り、代表的なものとしてはLEDの点灯回路や、昔のブラウン管テレビのフライバックトランスの駆動回路が昇圧回路です。
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